2009年10月9日金曜日

フランスの浮世絵師「アンリ・リビエール展」


台風18号が関東地方を通過した昼頃には空は青く澄み渡り、相模湾を通して富士山が浮き上がっていた。葉山御用邸に至る海岸では台風余波の激しい波が白く荒々しく打ち寄せていた。今日のような日には既に会期が迫っている左記の展覧会を観るには人出が少なくて好都合ではないかと昼前に美術館にむかった。葉山県立近代美術館は御用邸の並びの海岸沿いに位置している。予想した如くに参観者は少なく、ゆっくりと落ち着いて作品を見る事ができた。日本の浮世絵に影響を受けて、ひたすらに江戸の浮世絵師を尊敬し、その技術を真摯に学ぼうとしたアンリ・リビエール(1864-1951)なる版画家・画家が19世紀末にいたことを今まで知らずにきた。猫のポスターで知られるカフェ、Chat Noirで画家としてデビューした。このモンマルトルのカフェにはボヘミアン画家たちが集まっていた。1878年のパリ万国博覧会が開催され、エッフェル塔が建設され、ジャポニズムが話題にされる時代であった。林忠正(1853-1906)が万博を切っ掛けとして日本から渡仏し、その後パリで美術商として25年間在仏した。この林と知り合うようになったリビエールは林から日本美術についての正確な知識を得、浮世絵の収集も可能となった。1903年に林が日本に帰国して、日本にリビエールを紹介したことによりリビエールに影響される杉浦非水、富本健吉のような日本人木版画家がでてきたということもこの展覧会で初めて知った。2006年にリビエールの作品と彼が生前収集していた浮世絵がフランス国家の所蔵となったことが、本展実施の契機となったようである。エッチング、木版画、リトグラフ、水彩画、写真、影絵などの作品、関係資料約170点が出品され、その殆どが日本初公開である。収集された日本の浮世絵と並べて展示されているものを見ると、浮世絵の色の鮮やかさが大変際立っているのが分かる。また木版画の浮世絵製作の難しさを改めて知ることができる。絵師、彫師、摺師、版元との分業と高度の技の連携があって初めて成立する世界であるので、フランスにおいて木版画を実現させることの困難さをリビエールは実感していたと思われる。其の為か後期においての作品はリトグラフによるものとなっている。帰りがけに美術館内のレストランで波打ち際の泡立つ波と晴れ渡った相模湾を見ながら食事をとった。




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