前回ハンス・コパー展の紹介をいたしましたが、彼の陶芸の手法からある建築家の作品を連想しました。それはデンマークの建築家ヨルン・ウッツオンが設計したシドニーオペラハウスでした。学生時代から憧れていた建築家ですが、彼の計画案は余りにも独創的な形態の為、実施設計から施工段階まで構造的解析、実現可能な工法に達するまでに大変な難関に直面しましたが、彼は独力で天才的なアイデアを見いだし、世界を驚かせました。1956年(昭和31年)にコンペ開催、完成したのは1973年(昭和48年)でした。施工段階で実現不可能という直面で彼が発見したのは同一球体の一部を切り取り、同じものを貝合わせのように合接するという方法でした。ハンス・コパー展では陶芸の中で合接という全く同じ手法によって独創的な作品を生み出していることを発見してこの二人を繋げる連想に我ながら驚きました。こんな連想をするのは私だけの特別な思いのせいでしょう。建築という複雑な形態と陶芸という手技の作品形態とを単純に比較することはできませんが、知性的に到達した建築デザインと感性的な手の技から生れた陶芸作品との間にある共通な空間認識が存在していたことに感動を覚えました。今完成して存在しているシドニーオペラハウスは、シドニー湾に突出するベネロング岬の上に世界にも稀な美しい白いタイルの曲面と重なりあう帆船の様な構成を見ることができます。しかし、着工から予想し難い工期の遅れと国家予算を傾きかねない工事費の増額とにより、政治的な介入等もあり、設計者ウッツオンの設計意図が貫徹できずに退陣することになってしまった。その結果、天才的な設計者の不在により建築が如何に変質してしまうかを世に曝してしまう結果となった。オペラハウスという名前をつけながらオペラを上演出来ない音楽ホールを造ってしまったことはこの建物の最も悲劇的な事件であります。日本でも皇居内の新宮殿建設時に設計者の退陣という事件が起こったことを思い出します。
コンペ当選時の設計図
上段はコンペ入選時の側面図(パラボロイド曲面によるもの、1958年)
完成後の全体写真(1973年完成、1999年撮影)
同一球面の一部から全ての屋根ユニットを決定し、各ユニットを
貝合わせのように合接することにより構造解析が可能で、
施工しやすいリブに分解して組み立てられるシェル造形が生まれた。
ハンス・コパー展(Pot 1950&1973)
ハンス・コパー展(Thistle Form 1975, Pot 1970)
ハンス・コパー展(Spade Form 1978, Pot 1973)
ハンス・コパー展(Grobular Pot 1954)
ハンス・コパー展に出品された上記3点の作品に共通しているのは、下部の円筒型の基台部分は轆轤によって整形されているが、その上部又は中間部は扁平の皿状に整形されたものを貝合わせのようにして合接されたものである。4点目は一旦轆轤により成形されたものを分割して、各部を変形したうえで同一接合部を合接したものと思われる。この合接という手法を発見したことにより、陶芸において伝統的な道具であった轆轤による成形という枠を踏み出して大きく造形の世界を広げたことになる。ヨルン・ウッツオンが同一球面シェルの合接により美しくも合理的な屋根の造形を発見したこととハンス・コパーが陶芸で実現したものの中に共通したものを読み取ることができたことは、この展示会に改めて感動した由縁である。(nova -nozaki)
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